ソフトバンク・ビジョン・ファンド創設から5年、人工知能(AI)のユニコーン群をつくる「群戦略」の達成度は何合目ぐらいでしょうか。

孫正義・ソフトバンクグループ会長兼社長(以下、孫氏): まだ1合目ぐらいですかね。始まったばかりです。ビジョン・ファンドの投資先だけで約400社、それ以外にもソフトバンクやヤフー、PayPayなど以前からある日本の会社も含めると、お互いに切磋琢磨したり、協力し合ったりというシナジーが生まれ始めているのではないかなと思いますね。

2021年の株主総会で、「情報革命の資本家になる」と表現しました。その真意はどこにあるのでしょうか。

孫氏:ソフトバンクを「投資を中心とした企業に変えていく」と宣言してから3~4年たちます。説明が長くなるので「投資会社になる」と表現してましたけど、僕は投資家でなく資本家になりたいと思っていました。

 投資家と資本家は決定的に違います。投資家にとっては、いかに安く買って高く売るかが唯一の正義でありゴールだと思うんですね。一方、資本家はお金ではなくて未来をつくる。

ジェームズ・ワットやトーマス・エジソン、ヘンリー・フォードなどの発明家、起業家が産業革命をけん引しましたが、彼らとビジョンを共有しリスクを取ったロスチャイルドのような資本家がいた。日本でも幕末や明治維新のころは三井や三菱、渋沢栄一などの資本家が新しい会社をどんどん興していきました。

 そうして両輪で未来をつくりにいった結果、人類に有益な結果を生み出したんだろうと思うんです。AI革命の担い手である起業家、発明家とビジョンを共有して、人類の未来をつくりたい。それが我々のゴールであり正義なんです。

ロスチャイルド家と交流

ロスチャイルドは18世紀に始まり、今も存在します。孫さんの言う「300年企業」のロールモデルでしょうか。

孫氏:そうですね。そのまま模倣するつもりはないですが。現在のロスチャイルド家の当主とも親しくしていて、つい最近も彼がロンドンで主催したAIについてのカンファレンスで、リモートで基調講演をしました。産業革命の中心のロスチャイルド家が、AIでもいろいろなことに取り組もうとしているのは、なかなか興味深いところだろうと思います。

 お金をつくることが主な目的なら、それに適した組織や人材、ビジョンがあるかと思います。為替や金利、雇用統計、誰が政権を取るかなどを、毎日気にしなければいけない。

 僕はそういうことを気にしたことはあまりない。むしろ今、AIでどんな技術やビジネスモデルが出てきているかに関心があります。今日も朝から議論していましたけど、自動運転がどこまでどう来ているか、AIで金融の流れがどう変わるかといった未来に興味があるわけです。

「資本家」という言葉は誤解される可能性があります。マルクスの『資本論』でいうと、労働者が生み出した剰余価値を搾取する支配者といった意味合いもあります。

孫氏:そういうふうに意図が正しく理解されない場合があるので、「投資家」と説明していたわけです。けれども、産業革命は労働者だけでは成就しなかったと思うんですね。発明する人、起業家、そして資本家も、失敗したら全部失うかもしれないという膨大なリスクを取ったわけです。

一方、8時間働いた分の対価をもらえるというのは、8時間分のリスクを取っただけ。賃金が保障された人々が世の中で最も尊いかというと、そうでもないと思うんですね。

 もちろん発明家も投資家も資本家も、労働者がいないと成り立たない。それぞれが役割を果たしているわけで、資本家が搾取しているかのような言い方はバランスを欠いていると思います。